本研究では、ハドロン励起状態の構造に関してハドロン的描像に立って研究を行った。また、バリオン励起状態が重要な役割を担うと予想されている中間子原子核の構造・生成反応や、エキゾチックハドロンと期待されているσ中間子の構造に対する研究を行った。これらの研究は、量子色力学によるハドロン間の強い相互作用を理解する上で重要である。以下では、主要な研究成果について記す。 (1) バリオン励起状態の起源 : 本研究では、バリオン励起状態とハドロン散乱をよく記述するカイラルユニタリー模型を用いて、バリオン励起状態におけるクォーク模型的な状態がどのように励起状態の構造に反映しているかを見いだす方法を提示した。その結果、A(1405)に関してはほとんどがメゾンとバリオンの動力学から構成されクォーク模型で記述される状態の寄与が非常に小さいことがわかった。一方で、N(1535)では、クォークで記述される状態の寄与がいくらかあることがわかった。 (2) バリオン励起状態の構造 : A(1405)の電磁形状因子をカイラルユニタリー模型で計算し、A(1405)は通常のハドロンに比べて大きく空間的に広がっていること、A(1405)がK中間子の成分を多く持っているので荷電半径が負の値を持つことがわかった。N(1535)についても電磁的遷移振幅を計算しメゾン雲の重要性を指摘した。A(1405)に関しては、カラーの値Ncを変化させることで、クォーク模型的な励起状態とは異なる振る舞いを示すことがわかりA(1405)がメゾン・バリオン準束縛状態でることをサポートする結果を得た。 (3) ハドロン分子状態と新しいN*励起状態 : K中間子(K)、反K中間子(Kbar)と核子(N)の準束縛状態の存在可能性を、非相対論的ポテンシャル模型を用いて理論的に研究した。その結果、KKbarN系は、20-40MeVの束縛エネルギーを持って束縛状態を作ることがわかった。この束縛状態は、実験的にも興味が持たれ、活発に議論がされている。
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