陽子、中性子、およびストレンジネスを含むハイペロンの間にはたらく相互作用(核力)の理解は、強い相互作用の低エネルギー領域での性質を理解する上で重要な課題である。しかしながら、とりわけハイペロンを含む場合の核力は、実験データが限られているために、いまだに不定性が大きい。これらの核力の性質は、中性子星の中心部分のような、高密度核物質でのストレンジネスの役割を理解する上でも重要である。本研究では、核子とラムダ粒子の間の核力ポテンシャルについて、スピン一重項および三重項状態の(有効)中心力ポテンシャルを、格子QCD計算によって求めた。 (1)PACS-CSグループによる2+1フレーバの格子QCD計算で生成されたゲージ配位を利用した、空間体積が約(2.9fm) 3の場合の計算と、(2)クエンチ近似による、空間体積が約(4.5fm)3の場合の計算を行った。計算で用いたアップ、ダウンクォークの質量は、π中間子の質量に換算して、約300〜700MeVの領域である。スピン一重項、三重項のいずれのチャネルにも、短距離部分に斥力芯があり、中間距離部分に引力を待ったポテンシャルを得た。ポテンシャルの中間〜長距離部分のスピン依存性は非常に小さく、波動関数の漸近的振る舞いから得られた、有限格子体積中での散乱エネルギーは誤差を考慮するとほとんど差が無いという結果を得た。このエネルギーから求められた散乱長から、ラムダと核子の間の相互作用は引力であり、スピン依存性は小さいことがわかった。
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