研究概要 |
Sr_2RuO_4は内部自由度を持つスピン三重項2次元超伝導体であると考えられているが,磁場を[001]に垂直に印加した場合,低温領域において上部臨界磁場が抑制される現象が観測されており,完全にはスピン三重項超伝導では説明できない.また,磁場を[001]軸に印加した場合に予想される,dベクトルのフリップにともなう相転移もまだ観測されていない.これまで我々はSr_2RuO_4単結晶の極低温静磁化測定を行い,(i)ある磁場(~120Oe)以下ではヒステリシス磁化の振る舞いが磁場勾配によって大きく異な現象を発見し,この異常がdベクトルのフリップに起因する可能性を報告してきた.本年度は,磁場を[001]方向に印加した場合に弱磁場領域で起こる磁化の異常がdベクトルのフリップによるものかどうかを磁化以外の観点から検証するために以下の熱磁気量効果測定を行った.すなわち,超伝導試料に掃引速度を下げて磁場を加え,試料の発熱にともなう試料温度の磁場依存性を測定し,磁化測定結果と比較した.測定は増磁過程・減磁過程ともに行った.熱磁気量効果は,増磁過程においては,磁化の異常が起こる上限磁場(約120Oe)において発散的な振る舞いを示し,磁化の異常とよい一致を見た.しかし,減磁過程においては,その磁場では異常が見られず,磁場を反転したあとの同じ大きさの磁場(逆向き約100Oe)にならなければ発散的な振る舞いを見せず,磁化の結果と食い違う結果が得られた.この理由として,本熱磁気量効果測定では磁場勾配を加えていないため磁化測定結果と異なる結果が得られた可能性が考えられる.
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