スピン三重項超伝導体Sr2RuO4の磁場下における超伝導相での振る舞い、特に、Hc2の面内回転の等万性、パウリ限界的な振る舞い、および、ナイトシフトにおけるdベクトルの異方性エネルギーの小ささを理解する事を目指して、微視的なモデルに基づいて、おのおの具体的な評価を行った。特に、dベクトルの異方性エネルギーについては、ハバードモデル、d-pモデルの両モデルにおいて、比較を行った結果、モデルのパラメータにかなり敏感で、カイラルな状態は研究当初に考えられていたほどには、堅固でないことが分かった。この研究テーマに関しては、研究期間内に明確な答えを導く事ができなかったのが悔やまれるが、今後の礎にはなったと考えている。また、これと平行して研究を行った新規鉄系超伝導体は、同じように多バンド系で生じる超伝導であり、ここでは、バンド計算で得られた、現実的なバンド構造に基づいた5軌道ハバードモデルを研究した。摂動論やFLEX近似の範囲で相関効果を取り入れ、その正常状態の物理量の振る舞い、および、超伝導相図などについて、世界に先んじて一定の研究成果を挙げる事ができた。ここで用いられた、バンド計算からモデルハミルトニアンを構築する方法は、非常に一般的であり、多バンドの系を具体的に研究する上で、今後、非常に有効であることが一連の研究から明らかとなった。この方法論をSr2RuO4などの多バンド超伝導体に用いる事で、これまでのバンド構造に関する曖昧さは、かなり軽減されることになろう。こうして、この2年間で得られた研究成果は、当初期待した目的とは異なる側面において、今後の発展が期待できる非常に有意義なものとなった。
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