超流動ヘリウム3薄膜では境界効果のために、ストライプ相と呼ばれる空間的に不均一な超流動相の存在が予測されている。本研究は、このストライプ相やAB相転移など、約1ミクロン付近の膜厚で理論的に予想されている現象を、くし型電極を用いた流動特性の膜厚依存性測定から実験的に明らかにすることを目的としている。これにより、異方的超伝導体とも密接に関連した、制限された空間内での異方的クーパー対が示す普遍的性質の知見獲得が期待される。 微細加工により作成したくし型電極を用いることで、1mk以下の超低温環境下において膜厚1ミクロン以下の超流動ヘリウム3薄膜を高感度で測定し、自在に制御することが可能となった。磁場中で実験を行うために試料容器を銀で作成し、バルクの超流動転移を観測するための間隔0.1mmの平行平板や、液体の温度を精密に測定するための振動ワイヤー温度計を設置するなど、装置の改良を行い、実験を行った。これまでに、膜厚0.1〜8ミクロンの範囲にわたり超流動転移の膜厚依存性を測定した。その結果、境界効果による超流動性の抑制が転移温度の低下として観測された。膜が薄くなるにつれて転移温度が下がる様子は、バルクとの同時測定により、バルク転移温度からのずれとして精密に調べることができた。この転移温度の膜厚依存性は、理論予測よりも数%程度下がることが分かった。また、3000ガウスの磁場印加により系全体をA相にした場合で同様の実験を行った結果、ゼロ磁場中と同様の膜厚依存性となることが分かった。したがって、この転移温度の膜厚依存性は、ゼロ磁場中薄膜でも期待されるA相での異方的超流動の本質的性質である可能性が考えられる。
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