1) コバルト酸化物におけるスピン転移と相分離現象 : ペロフスカイト型コバルト酸化物では、そのコバルトイオンが高スピン、中間スピン、低スピン等の複数のスピン状態を示すことが知られており、これによりキャリアーの導入に伴い相分離現象や磁場の印加による巨大な磁気抵抗効果が観測されている。本研究課題ではこの微視的な機構の解明を目指して、理論計算を行った。系を簡単化することで二軌道ハバード模型を設定した。電子相関効果を正しく扱える方法として変分モンテカルロ法を用いた解析を行った。ここでは複数軌道系に対して変分モンテカルロ法を適用するためにアルゴリズムの開発を行った。2次元正方格子における数値計算により、キャリアーの導入により低スピン状態から高スピン状態へ転移すること、その途中で相分離現象が誘起されることが示された。 2) スピン分極状態における新規な軌道状態 : 強磁場の印加や強磁性状態においてスピンが完全に分極状態にある場合の3次元立方格子におけるt_<2g>軌道状態について理論的に解析を行った。スピンが完全に分極した状態では、任意の2次元面における軌道の占有電子数が保存する。この局所的な保存則は系の高い対称性を意味し、軌道の大きな揺らぎが期待される。我々は量子モンテカルロ法を用いて軌道模型の数値的な解析を行った。この結果、通常の意味での軌道秩序の傾向は見られないこと、またこれまで解析計算により絶対零度において予測されていた軌道状態は有限温度においてその兆候が見られないことを示した。相関関数や比熱の計算により、我々は低温においてある種の励起エネルギーにギャップをもった軌道液体状態が実現していることを見出した。
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