研究概要 |
イオン液体を構成するカチオンには長いアルキル鎖を有するのが一般的であり, 融点がこのアルキル鎖長に依存することから, イオン液体の安定性にはこのアルキル鎖が重要な役割を果たしているものと考えられている。とくに, アルキル鎖の乱れ・ダイナミクスが重要な因子であると考えられる. 本研究課題では, アルキル鎖の乱れ・ダイナミクスを熱力学的および分光学的観点から明らかにし, イオン液体の安定性との関係を明らかにすることを研究目的としている. 本年度は代表的なイオン液体である[C_nmim][Tf_2N]の熱力学的性質のアルキル鎖長(n)依存性を検討した. そこで, 入手可能な範囲でnの小さな[C_2mim][Tf_2N]と大きな[C_18mim][Tf_2N]について精密に熱容量を測定した.(25℃における)熱容量, 融点, 融解エントロピーのn依存性を長鎖アルキル基をもつ一般の(中性)分子液体と比較し, 1)イオン液体の液相におけるアルキル鎖は中性分子化合物とほとんど同じ状態にあること, 2)イオン液体の融解エンタルピーが分子化合物より大きいこと, 3)この傾向は短鎖領域で顕著なことを明らかにした. 1) の結果から, 大きな融解熱の原因は液相では無く結晶相にあることを明らかにした. 大きな融解エントロピーは低融点をもたらすから, 低融点の起源(の少なくとも一端)は結晶相にあることになる. この結果は, イオン液体の物性の理解には液相だけでなく結晶相についても詳細な研究が必要なことを示すものである.
|