研究概要 |
イオン液体は常温・常圧で液体であり、蒸気圧がほとんどゼロであることから、環境調和型溶媒として様々な反応系に利用されている。また触媒を担持する能力にも優れ、触媒のリサイクル法としても有用である。本研究では、天然酵素の活性中心に数多く存在するテトラピロール構造に着目し、イオン液体を反応場とする物質変換触媒の開発を行った。テトラピロール型触媒としては、コリン構造を有するビタミンB12と、人工ポルフィリノイドであるポルフィセンを基本骨格として用いた。ビタミンB12型錯体は電解触媒として用い、ポルフィセンは光増感剤として用いた。ビタミンB12型錯体のCo(I)種は超求核性を示すため、有機塩素化合物に対し高い反応性を示し、塩化物イオンの形で脱塩素化が進行した。さらにビタミンB12錯体が、ジクロロジフェニルトリクロロエタン(DDT)および1, 1-ビス(4-クロロフェニル)-2, 2-ジクロロエタン(DDD)の脱塩素化に対し優れた電解触媒となることを見出した。この反応加速効果の詳細を明らかにするため、ビタミンB12触媒機構を3段階に分け、各素過程に対するイオン液体の効果について精査した。具体的には、(1)活性Co(I)種の生成をCo(II)/Co(I)の酸化還元電位より、(2)Co(I)の反応性を溶媒の極性パラメータ値より、(3)中間体であるコバルトアルキル錯体の反応性(Co-C炭素結合の強度)をラマンスペクトルにより評価した。これらの相乗効果により、イオン液体中ではビタミンB12型錯体の反応性が向上することを明らかにした。
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