研究概要 |
従来研究より, 相反する回転変換(+90度/-90度)を施した二種類の視覚運動変換(回転マウス)を, 異なる色刺激(文脈手がかり)を与えつつ被験者に同時学習させた場合, 各環境を交互に経験させるよりも, ランダムに提示して経験させた方が, 事後の運動想起実験(すなわち文脈から回転変換を予期し, マウスの運動方向を補償する実験)の評価が高いことがされている. この現象はランダム提示条件の方が, 学習中に色手がかりに注意を向ける必要があったために生じたと考えられているが, 従来の説明は仮説の域を出ていなかった. 本年度, 我々は, 「二つの課題の交替頻度」と「予測可能性」が各々異なる複数の学習条件で被験者実験を行い, その結果, 「課題の交替頻度ではなく, 長期的に課題の提示順序が予測できないこと」が被験者に対し, 相反課題の同時学習を促進させることを確認した. このことは, 学習者の内因性の予期が, 運動の学習に大きく影響を及ぼすことを示唆している. そこで, 相反課題の同時学習の前後に, 被験者の前頭部(主に側頭葉前部)の機能的脳画像を近赤外光イメージング装置(NIRS)を用いて計測し, 環境の提示順序と脳の賦活部位(ニューロン活動)の関係を解明することを試みた. その結果, 運動学習の評価指標(方向誤差の減少)と前頭部のニューロン活動の変化(低下)に相関が認められた. しかしながら, 学習条件と脳腑活レベルの関係を明らかにするまでには至らなかった.
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