動物が外部環境に応じて高度な適応能力を発揮するのは、外部環境の情報をモニターしながら次の行動を決定し、能動的に環境に働きかけることが本質にある。それを可能にしているのは脳・神経系であり、その適応メカニズムの基本的プロセスを研究することは重要である。今年度は、神経系のネットワークに関して以下の二つの研究を行った。最初の研究は、周期発火しているニューロン集団を考え、その発火状態により結合強度が変化していく状況を非常に一般的な枠組みで解析した。このような系は神経活動が結合変化の影響を受ける一方、神経活動に依存して結合もまた時間変化することで多様な振る舞いを示す。解析の結果、3つの典型的な挙動を示すことがわかった。系の持つ機能性に関してヘッブ的な学習ルールの場合は二値記憶と同等の記憶能力があり、STDP的な学習ルールではいろいろなタイミングや時間的シーケンスが記憶可能であることを示している。次に、エピソード記憶形成が如何に行われるかを理解するために、海馬のニューラルネットをモデル化し、海馬の役割に関する計算論的な研究を行った。モデルCA3では事象記憶の列が生成され、各事象記憶間を連結する軌道はカオス軌道であり、いわゆるカオス的遍歴が生じることが分かった。また、共同研究による実験により、ラット海馬がカントルコーディングを行なっている可能性を強く示唆する結果が得られている。
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