真正粘菌変形体(Physarum po-ycephalum)は多核単細胞のアメーバ様細胞である。細胞の厚みを振動させながら環境中を這いまわり、環境からの情報を細胞の状態・形態にフィードバックしながら行動する。一見、特異な生物だが、「移動知」という概念から見た場合、生物実験系のモデル生物として最適な生物システムのうちの1つであろう。本研究では、粘菌が環境依存に形成する管構造の動的ネットワーク構造について環境との相互作用を視野に入れた解析を行い、要素集団系における「移動知」の共通原理の考察を行うことをめざしている。 H20年度は、まず粘菌が形成する管状構造ネットワークの成長過程を誘引環境と忌避環境で観察・解析をおこなった。ネットワーク・トポロジー解析と管径のネットワーク分布解析の結果、誘引環境では6角格子状で管径も連続的に階層的に分布していること、忌避環境では1ree-graph状で管径はある太さにピークのある分布をしていることがわかった。次に、各環境における振動の時空間パターンを調べ、誘引環境では空間波長の短い螺旋波が発生し、忌避環境では長波長の伝搬波が発生することを見いだした。この長波長波の発生とともに移動行動が開始され、このとき、管構造の成長が伴うことを定量的に確かめた。また、粘菌の進行方向に障害物があっても、管構造を発達させることにより、移動効率が低下することなく進行できることがわかった。以上の結果から、管の成長が移動行動と密接な関係があることを見いだした。
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