大脳基底核による運動制御を調べる目的で、以下の実験を行った。 (1) サルにおいて視床下核にムシモルを注入し活動をブロックすると、ヘミバリスム(不随意運動)が引き起こされる。その際の淡蒼球外節・内節の神経活動を記録してみると、発射頻度が減少していると同時に、長いポーズ(休止期間)が観察される。また、大脳皮質運動野(一次運動野や補足運動野)を電気刺激すると、通常は早い興奮+抑制+遅い興奮の3相性応答が記録されるのに対し、視床下核ブロック例では、正常より長い抑制が記録できた。 (2) DYT1ジストニア患者の原因遺伝子であるDYT1を組み込んだ遺伝子改変マウスから神経活動記録を行った。このマウスは、持続的に回転運動をするなど行動が亢進している。覚醒下で大脳基底核から神経活動を記録すると、淡蒼球外節・内節において、バースト発射やポーズ(休止期間)を伴う発射頻度の減少が見られた。大脳皮質運動野を電気刺激すると、淡蒼球外節・内節において、正常例においては観察されない早い興奮とそれに引き続く長い抑制という応答が観察された。 (3) ヒトジストニア患者の淡蒼球外節・内節より記録をしてみると、バースト発射や発振活動など、異常発射が観察された。また、一次運動野上肢領域の刺激では、長い抑制が観察された。このような反応は、パーキンソン病では観察されないものである。 以上の結果から、これらに共通の現象としては、大脳皮質電気刺激によって、淡蒼球外節・内節で長い抑制が誘発されることが挙げられる。すなわち、大脳皮質からの入力によって、淡蒼球内節に生じる長く続く抑制が、視床・大脳皮質を脱抑制することによって、不随意運動が起こっていると解釈できる。これらの結果は、「大脳基底核は、不必要な運動を抑制し、必要な運動を必要なときのみ引き起こすことに役だっている」という仮説と矛盾しない。
|