細胞内の多くの蛋白質は流動的に局在を変化させ、標的となる部位への局在と離脱を繰り返している。しかし、その動的な状態をとらえることは非常に困難である。生細胞内で人為的に導入した蛋白質の局所における量とその変化をリアルタイムで測定する方法が開発されれば、細胞内のシグナル伝達や細胞骨格の再構築制御機構の解明、様々な細胞内の活動を評価する画期的な解析技術になると考えられる。細胞内のアクチンは単量体が重合して細胞骨格を形成し、細胞運動や形態変化に重要な役割を担っている。アクチン分子は、分子の濃度が重合度によって動的に変動する細胞内分子である。私たちは、可逆的光活性化蛍光蛋白質であるDronpaを用いて生細胞内における遊離アクチン量を計測する測定方法を確立した。本研究においてさらに改良を行い、細胞局所における遊離アクチン濃度変化を追跡することが可能となった。この解析方法を用いて、乳癌由来MCF7細胞に対するEGF様の増殖因子であるNeuregulinの刺激による細胞内アクチン骨格の再構築時の遊離アクチン濃度の変化を測定した結果、刺激直後に一過的な遊離アクチン濃度の低下が見られ、その後、細胞形態が大きく変化することが明らかとなった。これらの結果から、刺激依存的な細胞運動において、アクチン重合が細胞の形態変化と共に起こるのではなく、刺激による初期のアクチン重合が細胞形態変化の準備として必要なステップであることが強く示唆された。一本研究で開発した細胞内の遊離する分子の濃度変化の測定法は、このような細胞応答における分子の動的な状態をモニターすることが可能であり、細胞内シグナル伝達の時空間的な制御の解明に有効な手段になると考えられる。
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