研究概要 |
細胞や組織が持つ高度な生体システムを調べるためには, 細胞を限りなく生体内に近い環境下で培養しつつ, 様々な薬物による細胞の応答を総合的に分析するようなプラットホームが必要となる。 本研究では, 生体内環境を模擬した数10μm〜数mmの微小な細胞培養チャンバと薬物・培養液などを供給するマイクロポンプによって細胞や組織の培養を行う細胞培養マイクロチップ内に, オンラインかつリアルタイムで培養細胞の活性を測定するためのマイクロ電気化学センサを集積化することでマイクロ培養チップの多機能化を狙いとしている。具体的には, 細胞の代謝活動のエネルギー源となるグルコースの消費量を計測するために, マイクロ電気化学グルコースセンサ(マイクログルコースセンサ)を開発し, それをマイクロ培養チップ内に内蔵して培養細胞のグルコース消費量のリアルタイム測定を行った。 マイクログルコースセンサは3端子法による電流測定のための3つのマイクロ電極と, グルコース特異性を出すためのグルコース膜部分から構成され, マイクロ電極部分はフォトリソグラフィーによってパターニングし, グルコース膜は陽イオン交換膜の一種であるNafionにグルコース分解酵素であるグルコースオキシダーゼを溶解したものを加熱重合することにより作製した。このように作製したマイクログルコースセンサの安定性やキャリブレーション法を確立後, マイクロ培養チップ内に内蔵して培養細胞のグルコース消費量のモニタリングのテストを行った。 テストの方法は, 細胞が培養されている培養チャンバの入口/出口にそれぞれマイクログルコースセンサを配置し, 入口と出口におけるグルコース量の差分を測定することで, 培養細胞で消費されたグルコース量を見積もった。また, 長期的測定のためにグルコースオキシダーゼの活性の低下に伴う感度低下を補うため, オンラインでグルコースセンサのキャリブレーションを実現するためのキャリブレーション構造も同時に組み込んだ。 その結果, 約3日間の試験期間において培養したHep-G2細胞のグルコース消費量のモニタリングに成功し, 細胞数にして約3×10^5個のHep-G2細胞当たり, 定常的に1,7〜2,0mMのグルコースが消費されていることが判明した。
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