研究概要 |
発生・再生の様々な場面で細胞は長距離移動するため、細胞の長距離移動の制御は、発生生物学的に重要であるとともに、再生医療や細胞工学の重要課題でもある。ところが、一般に走性の刺激は単調な増加を想定しているため、長距離の場合は変化量が少なくて細胞は反応できない。我々は、非対称の細胞接着領域が繰り返されていれば細胞は一方向に動くという作業仮説を立てた。 本年度は、この仮説を検証するため、培養皿を物理的かつ化学的に修飾して環状の鋸歯状の細胞可動領域を作り、マウス由来の細胞株(PC12細胞)を神経様に分化させた細胞を使いモデル実験を行った。多点タイムラプスシステムを用い、環状の鋸歯状の細胞可動領域における細胞運動を数百個の細胞で撮影し、統計な解析した。環状の鋸歯状の細胞可動領域は、中心の直径約100μmの円盤状の細胞非接着領域と、周囲の鋸歯状(歯数は8枚、歯の深さは約40μm)の細胞非接着領域との間の、幅25〜65pmの鋸歯状の領域である。線対称な2つのパターンを作り交互に配置することにより、互いに対照実験となるようにした。その結果、細胞は細胞接着領域の鋸歯が徐々に狭くなる方向(正の方向と規定)に有意に動くことが示された。正の方向に動く原因を探るため、神経突起に着目した。突起伸長は細胞運動に大きく影響を与えることが知られている。そこで、細胞体より正の方向、負の方向に最も長く延びた神経突起の長さを比べたが、有意差はなかった。次に、細胞体と突起の先端の運動の軌跡をグラフにしたところ、突起の先端は爪車の歯の先端に留まりやすいことが分かった。更に、正の方向に突起の先端を伸ばした後、細胞体がその突起を追い抜かしていくという特徴的な動きも観察された。 以上のことより、我々の仮説は限定された条件下で成り立つことが示唆された。この成果は細胞運動の新しい概念の創出に役立つとともに、細胞治療の技術開発にも役立っことが期待される。以上の成果を論文として投稿・受理された(Ohnuma et.al., JBB,In Press)。
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