本研究の目的は、モデル動物である線虫C.elegans個体において単一標的細胞で目的の遺伝子発現を抑制できる実験系を確立することである。発生過程を通じて異なる細胞・場面で繰り返し使用される遺伝子の多くは、その変異体が致死となる。これらの遺伝子が発生過程の各場面で特定の細胞でどのような機能を果たしているのかを解明するには、個体内の該当する細胞に限定してその遺伝子の機能を抑制する必要がある。私達は、すでに赤外レーザ顕微鏡による単一細胞加熱と熱ショックプロモーターを組み合わせたC.elegansの単一標的細胞における遺伝子発現誘導系(IR-LEGO)を確立している本年度は、IR-LEGOを応用し単一標的細胞での遺伝子発現抑制を行うために、1)持続的遺伝子(RNA)発現誘導系と、2)誘導可能なRNAi系の開発を進めた。1)Ubiquitousなプロモーターとレポーター遺伝子間にstuffer配列を挿入したコンストラクトをトランスジーンとして個体に導入し、stuffer配列切り出しに伴うレポーター発現を指標として生体内DNA組換え効率を検討した。プロモーターはelongation factor 1 alpha(eft-3)遺伝子プロモーター、レポーターはGFP cDNAを用いた。Cre / loxP系がC.elegans個体内で機能することを初めて明らかにした。さらにFRT/flp系に比べてCre/loxP系の方が多くの細胞種で組換え効率が高いことを見出した。2)Fire vector pPD49.78を用いてhsp16-2プロモーター下にRNAi必須因子rde-1 cDNAを繋いだプラスミドを構築し、rde-1 cDNA変異体に導入した形質転換系統を作製し、熱ショックによる遺伝子発現抑制を試みたが、一過性のrde-1発現ではRNAiは誘導できなかった。
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