研究概要 |
本研究の目的は、モデル動物である線虫C.elegans個体において単一標的細胞で目的の遺伝子発現を抑制できる実験系を確立することである。発生過程を通じて異なる細胞・場面で繰り返し使用される遺伝子の多くは、その変異体が致死となる。これらの遺伝子が発生過程の各場面で特定の細胞でどのような機能を果たしているのかを解明するには、個体内の該当する細胞に限定してその遺伝子の機能を抑制する必要がある。私達は、すでに赤外レーザ顕微鏡による単一細胞加熱と熱ショックプロモーターを組み合わせたC.elegansの単一標的細胞における遺伝子発現誘導系(IR-LEGO)を確立している。 本年度は、昨年度開発したCre/loxPと、構成的発現を誘導するelf-3遺伝子のプロモーターを組み合わせた誘導可能な持続的遺伝子発現系を利用して、RNA干渉(RNAi)必須因子rde-1cDNAをrde-1変異体中の単一細胞で発現させ、単一細胞でRNAi能を救済することを試みた。線虫のHox遺伝子であるmab-5遺伝子は表皮細胞の運命決定を司ることが知られている。mab-5遺伝子のfeeding法によるRNAiを施した幼虫の雄の尾部に存在し、将来感覚器rayを形成する単一表皮細胞V5,V6でrde-1cDNAを発現させたところ、その細胞の子孫における分裂パタンがmab-5変異体と同様の表現型を示し、細胞系譜が異常となることが確認された。この結果から、本手法による単一細胞での遺伝子発現抑制が可能であることが実証された。
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