本研究では、生体の情報伝達系においてみられる受容体と酵素間の機能の連携に着目し、情報の伝達を外部信号によって制御できる人工細胞の開発を目的とした。得られた成果は以下のとおりである。 1. 我々が開発した有機-無機ハイブリッド人工細胞膜であるセラソームに、細胞の情報伝達においてその重要性が指摘されている脂質ラフトの概念を導入することで、ドメイン構造をもつ人工細胞膜を作製した。また、微視的粘性の違いを反映して脂質ラフトドメインを可視化できる蛍光センサー分子を新たに開発した。さらに、光応答性のコレステロール誘導体を用いて、脂質ラフトドメインの光シグナルによる構造制御が可能であることを示した。 2. 光応答性のジェミニペプチド脂質を人工受容体に用いて、この受容体と酵素を脂質二分子膜に自己集積化した。その結果、光シグナルを人工受容体が認識し、その応答をメディエーターである金属イオンを介して酵素に伝えることで酵素活性を制御する分子情報変換システムが構築できることを明らかにした。 3. 人工細胞膜上での人工受容体から酵素へ分子情報の伝達が、膜融合によって制御できる分子集積システムを開発した。膜融合は、DNAシグナルが脂質二分子膜表面に相互作用することで誘起され、その結果として起こる膜の相状態の変化が人工受容体のメディエーター認識能に影響を及ぼすことで、酵素活性のスイッチングにつながることを明らかにした。 以上の結果は、脂質ラフトドメインに人工受容体と酵素を集積したり、そこで起こる分子情報変換を膜融合などの脂質膜マトリックスの動的挙動によって制御することができる高次の人工細胞システムの構築が可能であることを示すものである。
|