平成20年度前半は心臓内の力学的不均一性を評価するために、オックスフォード大学のグループとの共同研究により、モルモット心の心房、右室、左室の3領域から単離した心筋細胞の力学的特性を比較検討した。その結果、心房筋細胞は心室筋細胞に比して静的力学特性としての弾性(拡張期末長さ張力関係で表される)が有意に高く、また最大収縮速度や弛緩速度などの動的な力学特性も心房筋の方が速いことが明らかとなった。一方で左右両心室筋間には静的・動的いずれの力学特性も有意な差は認められず、臓器(心室)内における心筋細胞の機械的特性の違いは小さいことがわかった。そこで20年度後半は臓器レベルの機械電気相互作用として、SAKCAチャネル(ヒト心筋遺伝子ライブラリーから新しくクローニングされた進展感受性BKチャネル。生理的な役割はよくわかっていない)を介した現象を、ヒトと共通したSAKCAチャネルが存在するトリ摘出心を用いて詳細に検討した。トリ摘出ランゲンドルフ灌流心の左室腔内に挿入したラテックスバルーンの内容液量を急激に変化させて左室壁を伸展することにより不整脈を誘発した。誘発された不整脈は機械電気相互作用の臓器レベルにおける統合出力であるが、これは多くの機械受容チャネルをブロックするGsMTx-4で阻害され、特異的なBKチャネルブロッカーのIberiotoxin(IbTx)にて増強した。この結果からSAKCAチャネルは他の機械受容チャネルにより引き起こされる機械刺激誘発性不整脈を抑制する効果があるものと思われた。今年度の研究結果はSAKCAチャネルの生体心における役割を示した最初の知見であり、ヒトにおける機械電気相互作用の全容を解明するための重要な研究結果である。また今年度の知見を統合した心筋細胞数理モデルの開発も進んでいる。
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