血管内皮細胞でのメカニカルストレス感知は、心臓へ流入する血行動態を決定する重要な役割を担っている。心不全のトリガーは血行動態負荷でありながら、心血管系メカノセンサーの分子実体は不明であった。本研究において我々は、ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)において、ストレッチセンサーとして機能する候補分子を同定した。さらに、このストレッチセンサー分子の作動機序のヒントとなるような膜直下細胞骨格構造の重要性と、ヒト血管内皮におけるストレッチセンサー分子の生理的役割を検討した。ストレッチセンサー分子をCHO、HEK細胞に強制発現させ、各細胞のストレッチ依存的Ca2+上昇を観察したところ、細胞種によってストレッチ刺激に対する感度が違うことが明らかとなった。各細胞の形質膜直下でのFアクチン構造を観察すると、面積あたりのFアクチンメッシュワークの密度が異なっており、著しくFアクチンメッシュワーク密度が低いCHO細胞では、ストレッチセンサー分子を強制発現してもストレッチ刺激に対してほとんど反応しないことが明らかとなった。このことは、チャネル近傍の細胞骨格タンパクが重要な役割を担うことを示している。さらに、HUVECのストレッチセンサー分子をノックダウンさせた場合、ストレッチ刺激依存的なFアクチン配勾減少が消失しただけでなく、HUVECでのNO産生が著しく減少することが明らかになった。このことは、HUVECにおいて、ストレッチセンサー分子は複合体の一部として機能しており、ストレッチ刺激依存的なNO産生に大きく関わっていることを示している。
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