研究概要 |
軟組織再生用足場として生体との生化学的・力学的な適合性に富む生分解性ヒドロゲルが有望視されている。本研究は, 室温では溶液状態で, 生体内に注射すると体温に感応してヒドロゲルとなる生分解性インジェクタブルポリマー(IP)を, 軟組織再生用足場として用いるための基本原理の究明と最適な分子設計を目的として研究を行った。本年度は, 8本に分岐した構造を持つマルチアーム型PEGの末端にポリ-L-乳酸を結合し, さらにその外側にPEGを結合させた分岐型トリブロック共重合体(8 arm-PEG-b-PLLA-b-PEG)と, それと光学異性体の関係にあるポリ-D-乳酸を用いた同様の構造を持つ共重合体(8 arm-PEG-b-PDLA-b-PEG)の等量混合物における, ゾル-ゲル転移挙動についてレオメーターなどを用いて調べ, PLLAとPDLAのステレオコンプレックス形成がゲルの力学的特性に与える影響について検討を加えた。その結果, 共重合体混合物水溶液(15wt%)は, 室温下で混合しただけではゲルを生じないが, 32℃にゲル化点を有し, その37℃における貯蔵弾性率は約10,000Paを示し, これまでに報告された生分解性のゾル-ゲル転移ポリマーに比べて著しく高い値を示すことが分かった。また, このゲルは低温に戻してもゾルには戻らず, このポリマーのゲル化が不可逆的なものであることも明らかとなった。得られたゲルの生理的条件下での分解挙動を調べたところ, 20日程度にわたってゆっくりと分解していくことも確認された。さらに, ゲルからのタンパク質の放出挙動を調べたところ, 約一週間にわたる徐放が観測された。以上のことから, 本研究で調製したゲルはこれまでのものよりも生体に近い高い力学的強度を持つ生分解性IPとして, 再生医療等において有用であることが示された。
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