本研究では、「複数の機能をもつ配位子」としてホスフォール、アルソールなどの15族ヘテロ原子を含む五員環化合物をとりあげ、その有機金属錯体の化学を展開した。ホスフォールから容易に誘導できるホスフォリド(ホスファシクロペンタジエニル)は、Cp^-と化学的・物理的類似性を有しており、6電子供与体としてh^5配位によりホスファメタロセンを形成する。ホスファメタロセンのリン原子には局在化した非共有電子対があり、2電子供与体としてホスフィン類似の機能がある。この点に着目し、二官能性配位子としてのホスフォールを遷移金属錯体へ応用し、新たな結合・反応性・機能の発現を目指した。 昨年度までの研究において得られていたジホスファオスモセンとアシル求電子剤とを反応について検討した。アセチル求電子剤との反応では、ホスファルテノセンの反応と同様にP-Os架橋ビニリデン錯体が主生成物として得られたが、Friedel-Craftsアセチル化生成物の生成は認められなかった。このP-Os架橋ビニリデン錯体はさらにアセチル求電子剤と反応し、ビニル末端がアセチル化されたアセチルビニリデン錯体が定量的に得られる。ここで、P-Os架橋ビニリデン錯体に塩化フェニルアセチル由来の求電子剤を反応させると、(フェニルアセチル)ビニリデン錯体が高収率で得られる。 近年我々は、閉環メタセシス反応を応用し、架橋メタロセン誘導体を立体選択的に合成する手法を開発して報告している。キラルなSchrock型モリブデン・カルベン錯体を用いた不斉閉環メタセシス反応により、プロキラルなホスファフェロセン基質の非対称化により、最高99%eeという非常に高い選択性で面不斉ホスファフェロセンの触媒的不斉合成に成功した。
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