研究概要 |
本研究は、高周期14族および15族元素を含むπ電子系と遷移金属のd電子系からなる新規なd-・電子系の構築とその物性解明を行い、典型元素π電子系と遷移金属元素の相乗効果の解明を目的としている。昨年度の研究において、高周期14族元素π電子系と鉄原子を含むフェロセンに注目し、二つのフェロセニルユニットをジシレンユニット(Si=Si)で架橋した1,2-bis(ferrocenyl)-disilene(1)の合成に成功した。本年度は、ジシレン1の物性解明とともに、遷移金属ユニットの元素の違いによる相乗効果への影響を知る目的で、1,2-bis(ruthenocenyl)disileneの合成とその性質解明を行った。Tip(Rc)SiCl2(Rc=ruthenocenyl)に対し、還元剤としてリチウムナフタレニドを作用させたところ、新規な1,2-ビス(ルテノセニル)ジシレン(E)-Tip(Rc)Si=Si(Rc)Tip(2)が室温で安定な黄色結晶として得られた。各種スペクトル測定やX線結晶構造解析により、ジシレン2の構造・物性を詳細に解明した。特にUV/visスペクトルにおいて、ルテノセニル基のRu部位とSi=Si二重結合部位のMLCTに相当するバンドが観測され、それは1におけるFeからSi=Si部位へのMLCT遷移よりも短波長側であった。またサイクリックボルタンメトリーにより、2の酸化還元挙動を解明した結果、2は1と同様、酸化側および還元側にそれぞれ二段階の可逆な酸化還元波を与えることが判った。これらの結果は、本来酸化還元には不安定なジシレン類が、ルテノセニルユニットの相乗効果により安定な酸化還元系となることが判ったのみならず、二つのルテノセニルユニット間のSi=Siユニットを介した顕著なd-π共役が支持される結果であり興味深い。
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