研究概要 |
カリックスアレーンとポルフィリンが融合した化合物であるカリックスフィリンは、柔軟な骨格と酸化還元活性なπ共役平面を併せ持つ新しいタイプの大環状多座配位子である。本年度の研究では、チオフェンを含むハイブリッドカリックスフィリン配位子を新たに設計・構築し、複数の典型元素が織りなす協同効果がうまく発現されるような発光性金属錯体の開発を一つの目標として研究を進めてきた。具体的には、チアトリピランとピロール、フラン、およびチオフェン誘導体との酸触媒縮合環化反応と引き続く酸化反応により、2電子酸化型および4電子酸化型S, N2, X-カリックスフィリンを合成し、X線結晶構造解析および各種スペクトル測定によりその構造を明らかにした。次いで、S, N3-カリックスフィリンと種々の2価亜鉛との錯形成反応を行い、得られた亜鉛錯体の構造と光物性を調べた。興味深い点は、得られた亜鉛錯体がいずれも極めて高い発光特性を示す点であり、その蛍光量子収率は最大23%に達した。さらに、鉄や銅など他の遷移金属との錯形成では発光性錯体が全く形成されないことから、S, N3-カリックスフィリン配位子は, 亜鉛センサーとしての高い潜在力を保有していることがわかる。また、上記課題と平行して、ホスホールを含むハイブリッドカリックスフィリン錯体の構造や触媒活性に与えるメソ置換基の効果を検証し、置換基の電子効果が金属中心の電子状態や反応性に大きな摂動を与えることを明らかにした。以上の結果は、カリックスフィリン骨格のhemilabileな性質やπ共役部位の酸化還元特性を組み合わせた概念的に全く新しい発光材料ならびに遷移金属触媒反応系を構築するうえで重要な知見になると考えている。
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