テトラピロール配位子骨格と中心金属の反応性との相関関係を明らかにするために、今年度は、ポルフィリンのメソ位の1つが欠損した環状テトラピロール環であるコロールに着目し、そのコバルト錯体とジアゾ酢酸エチルとの反応および触媒的シクロプロパン化反応について検討した。ベンゼン中、室温において、コロールコバルト(III)錯体とジアゾ酢酸エチルとの反応を紫外可視吸収スペクトルにて追跡したところ、速やかなスペクトル変化が観測され、カルベノイド錯体の生成が示唆された。しかし、スチレンを添加しても、劇的なスペクトル変化が見られなかったことから、別の化学種であると考えられた。そこで、プロトンNMRによる反応追跡を行ったところ、-3.5から-2.0ppm付近に2本のピークが出現し、2種類の化学種の生成を示した。この2つの化学種は、約3日かけて1種類の化学種に収束し、反応後のFAB-HRMSスペクトルより、N-架橋錯体の質量数と一致する結果が得られた。また、収束に至るまでの期間に、スチレンを大過剰加えると、わずかながら、対応するシクロプロパンの生成が観測された。従って、コロールコバルト錯体とジアゾ酢酸エチルとの反応により、速やかに2種類のN-架橋錯体が生成し、これら2種類の化学種がカルベノイド中間体を経由しながら熱力学的に安定な一方のN-架橋錯体へ移行すると考えられる。DFT計算による構造最適化を実施し、2種類のN-架橋錯体のエネルギー差は、32kcal/molを見積もられた。以上、これまで一般のポルフィリンコバルト錯体では見られないジアゾ酢酸エチルとの反応が、コロールコバルト錯体で観測された。
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