本研究では、生体分子の会合特性を基軸とする相乗系生物有機金属錯体システムの創製を目的とする。本年度は、ポリグルタミン酸への発光性白金錯体の導入に基づく相乗系金属錯体システムの開発、および核酸塩基部位を有する発光性白金錯体の合成を行った。 pH7.6のトリスバッファーとメタノール混合溶媒中(v/v=1/14)において、ポリグルタミン酸(P(Glu))にアルキル鎖を持たない白金錯体PtH、あるいはドデシル鎖を有する白金錯体PtC_<12>の導入を行った。いずれの白金錯体もP(Glu)の不斉環境に存在していることがCDスペクトルから示唆された。PtHを導入したP(Glu)-PtHの発光スペクトルにおいて、P(Glu)の割合が増すにつれ、650nm付近の発光が増大することが明らかとなった。一方、PtC_<12>を導入したP(Glu)-PtC_<12>では、P(Glu)の割合が増大するに従って、650nm付近の発光が減少し、白金-白金相互作用に起因するMMLCT遷移に基づく相乗系発光が800nm付近に観測された。ポリグルタミン酸を土台分子とする白金錯体同士の相互作用に基づく相乗系発光錯体システムが開発された。 核酸塩基としてウラシル部位を有するフェニルビピリジル白金錯体を設計合成した。5-エチニルウラシル部位を導入した白金錯体U-Pt1では、溶液状態でも固体状態でも600nm付近に発光が観測された。一方、6-エチニルウラシル部位を導入した白金錯体U-Pt2では、溶液状態では600nm付近に、固体状態では白金-白金相互作用に起因するMMLCT遷移に基づく相乗系発光が800nm付近に観測された。エチニル基の位置によって自己会合挙動が異なり、上記のような発光特性の差異が見られたものと考えられる。
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