研究概要 |
金属触媒を2種類以上用いると、単独の触媒では行なえない変換反応が進行したり、効率的に多段階の反応を行なえたりすることがある。今年度は、偶然に見いだしたレニウムとマンガンの錯体にユニークな触媒作用に焦点をあて、新反応の開拓を行ない、以下の新しい反応を見いだした。 (1) ひずみのない炭素-炭素単結合への不飽和分子の挿入反応は困難である。以前に[ReBr(CO)_3(thf)]_2とイソシアニドを触媒に用いると、環状のβ-ケトエステルのケトン基の隣の炭素-炭素単結合に末端アルキンが挿入して環拡大反応が進行することを見いだしている。この炭素-炭素結合切断をともなうアルキン挿入反応が直鎖化合物においても進行すること、挿入反応のあとにフッ化テトラブチルアンモニウム(TBAF)を添加すると、アルコールの脱離を伴う分子内環化反応が促進されて2-ピラノン誘導体が得られることがわかった。また、同様の作用が、レニウムと同族のマンガン錯体にもあることを見いだした。 (2) マンガン触媒による1, 3-ジカルボニル化合物と末端アルキンの[2+2+2]付加環化反応を見いだした。この反応は、アルキンの環化三量化反応の欠点を補う反応となる。なお、類似の反応が、東大の中村、辻からも同時期に報告された。 (3) レニウム触媒[ReBr(CO)_3(thf)]_2存在下、鎖状のβ-ケトエステルと末端アレンを反応させたところ、[3+2]付加環化反応が立体選択的に進行し、シクロペンテン誘導体が生成した。また、この反応では生成するシクロペンテノン環上の3箇所の炭素原子の立体化学は完全に制御されることがわかった。 (4) 塩化金(I)をレニウム錯体と同時に用いることで、アルデヒドと2当量のシリルアセチレンからジエチニルメタンを一挙に合成する方法を前年度に報告したが、この反応の2段目は、プロパルギルアルコールの水酸基を脱離基として利用し、そこへのシリルアセチレンの求核付加反応である。この反応の適用範囲を調べた結果、求核剤として、1, 3-ジカルボニル化合物が使えることがわかった。
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