従来の新反応開拓研究は、研究者の仮説(勘)あるいは膨大な数にのぼる基質・金属・配位子・溶媒・温度等の組み合わせ実験が必要とされてきた。本研究では、どんな中心金属を選ぶべきかどんな配位子を設計・検討するべきか新反応開拓に向けて、まず理論的・物理化学的手法を駆使した理論研究を軸とする新しいアプローチ法を開発しました。本研究課題は、計算化学ならびに物理化学的手法によって反応経路解析によって金属錯体の反応や機能を解明し、予測・設計に役立てようというものであり、これまでの研究者の勘と経験に頼っていた反応開発を新しい方向から考え直そうというものです。目的の反応(のみ)を進行させるためには、理論的には反応遷移構造・活性化エネルギーの予測と制御が必要となります。遷移状態を確認できる手法は、現在のところ理論計算しか存在しません。同時に、錯体の会合度や詳細な構造は、物理化学的な手法を用いて確認するしかありません。物理化学、理論化学と実験化学の融合は、今後の大きな課題です。 本年度は、亜鉛アート錯体の反応性・選択性の起源を中心に有機反応の重要な反応経路・反応機構・遷移構造・活生化エネルギー・軌道相互作用などを、理論計算を用いて明らかにすることができました。これらの結果は、当初の一般的な予想を大きく覆すものとなりました。「亜鉛挿入反応におけるLiCl塩の高度活性化機構の解明」「亜鉛アート錯体を用いるハロゲン-亜鉛交換反応の詳細な反応機構とその活性化メカニズム」「重縮合の機構解明」「15族・16族元素の含まれるヘテロ環の合成とその物理化学特性の大きな違い」などを明らかにすることができました。
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