我々は、Cp*RuCl(cod) 触媒によるエニンの新たな環化付加反応を既にいくつか見出し報告してきた。これらの反応はいずれもエニンとRu触媒と反応し生成する「ルテナシクロペンテン中間体」を経由して進行するが、エニンの構造、特にアルキン上の置換基の種類と性質が反応経路を決定する点に特徴がある。すなわち、末端アルキン、及びアルキン上にアルキル基、ホルミル基、 エステル基が置換したアルキンの反応では、1気圧のエチレンガス気流下、容易にルテナシクロペンテン中間体のRu-Csp^2結合へのエチレンの挿入反応が起こり、環状構造を有するジエンが生成する。一方、アシル基が置換したアルキンでは、ルテナシクロペンテン中間体からルテニウムカルベン中間体が生成し、これとエチレンとの反応によってシクロプロパンが生成する。分子内の適当な位置にアルケンが存在すると、エチレンの代わりにそのアルケンがルテナシクロペンテン中間体に挿入し、この場合はβ-水素脱離は起こらずに還元的脱離によって3環式化合物が生成する。このようなルテナシクロペンテン中間体の多様な反応性に興味を持ち、今年度はアレンーインとRu触媒の反応を検討したところ、アレンが持つ2つの二重結合のうち内側の二重結合とアルキンとから生成する「ルテナシクロペンテン中間体」を経由した全く新しいタイプの環化二量化反応の開発に成功した。本反応では、シクロブタン環が3つ連続したラダー構造を含む興味ある新規5環式化合物が得られることから、今後この骨格自体の有効利用を含め検討していく予定である。
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