水を溶媒とする有機合成反応は、環境に負荷をかけない有機合成プロセスの開拓において重要な研究課題の一つである。筆者らは、最近シリカゲル固定化スカンジウム触媒とイオン液体を組み合わせることにより、水中で有効に機能する新たな触媒系を見いだしている。そこで、本研究ではイオン液体を反応場として活用する水溶媒中での効率的反応系の構築を指向して研究を行った。 これまでに、筆者らはスカンジウムとキラルビピリジル配位子からなるキラルスカンジウム触媒が、水存在下様々な不斉炭素-炭素結合生成反応に有効に機能することを明らかにしている。ごく最近、親水性物資であるホルムアルデヒドが水のみを溶媒とする反応においても、界面活性剤存在下疎水性物質であるケイ素エノラートと効率的に反応し、対応するヒドロキシメチル化体が高いエナンチオ選択性で得られることを報告した。そこで、本手法をさらに効率化すべく、ケイ素エノラートの合成前駆体であるケトンを直接基質として用いる反応について検討を行ったところ、本触媒系が有機塩基存在下有効に機能し、目的物が良好な収率、選択性で得られることがわかった。本触媒系は、将来的にはイオン液体を反応場とする反応系へも適用できるため、今後検討を継続していく予定である。一方、本研究の途上、キラルビピリジル配位子と銅からなる触媒が、水中での反応においてスカンジウムからなる触媒とは逆の立体選択性を示すことが明らかになった。この興味深い現象について検討を行ったところ、触媒のX線結晶構造解析の結果等から、それぞれの金属に対するビピリジル配位子の配位様式の違いが選択性の逆転につながっている可能性が高いことを明らかにした。これらの研究は水のみを溶媒として用いる不斉炭素-炭素結合生成反応を大きく発展させるものであり、今後のイオン液体を反応場として用いる反応へとつながると考えている。
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