研究概要 |
初年度の成果を基に、イオン対協奏型オニウム塩触媒作用創出のさらなる展開を図り、キラルアミノホスホニウムフェノキシドを創製した。その際に、水素結合部位をもっアミノホスホニウムカチオンが、中性分子であるフェノール類2分子を取り込んだ水素結合ネットワークを構築し、フェノキシドアニオンとのイオン間相互作用の助けを借りて、先例のない分子集合体を自発的に形成することを見出した。得られた集合体の特徴として、キラルな有機カチオンがもつ三次元の情報がフェノール分子を介して増幅され、柔軟でありながら精密な分子ポケットを形作っていることが挙げられる。さらに、この分子集合体を触媒として機能させるため、構成要素の一つであるフェノール類と類似構造をもつ2位無置換アズラクトンを取り上げ、これとα,β-不飽和N-アシルベンゾトリアゾールとの共役付加反応に適用することで、高立体選択性の獲得に成功した。生成物は、光学活性コハク酸誘導体へと容易に変換できる。またこの時、集合体の構成要素の全てが高立体選択性の発現に協奏的に関与していることを明らかにした。加えて、溶液中での触媒の構造を、分子集合のしやすさが濃度の影響を大きく受けることを利用して推定し、集合体の形成が高い立体選択性で反応を進行させる鍵であることを強く示唆する結果を得ている。複数の弱い力の組み合わせにより、高性能の触媒として働く分子集合体が自発的に組み上がるという成果は、単純な有機分子の組み合わせから無数の触媒構造、ひいては新しい触媒機能が生まれる可能性を明確に示すものであり、有機分子のみからなる触媒を自在に設計するための新たな手法を提供し、有用化合物の環境調和型化学合成の推進、さらにはこの分野の発展に大きく寄与するものと期待される。
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