遷移金属クラスターは、架橋配位子に応じて適切な位置に配置された複数の金属中心(多金属骨格)に由来する多段階酸化還元過程を示し、これは多金属骨格の特徴の一つといえる。これまでに電子豊富な[4Fe-4C]骨格は酸化還元に応答して、その骨格構造を可逆的に変換することが明らかになっている。この系では[4Fe-4C]骨格へ有機化学において確立された求核置換反応により、様々なLinkerあるいはspacerを導入できることから、この特性を活かした触媒など前例の無い様々な機能性分子への応用が期待される。本研究では電子豊富な[4Fe-4Cl骨格をバックボンに有し、2つのジエチルアミノ基を配位部位として有する二座キレート配位子の合成に成功した。その中性体および二電子酸化体の構造を各種分光学的データおよび単結晶X線構造解析により明らかにし、そのbite angleが酸化還元に応答する形で可逆的に変換できることを明らかにした。また、バタフライ型構造をとる電子豊富な四鉄上において、ブロモアセチレンフラグメントを創製し、さらに銀塩で臭化物イオンを強制的に引き抜くことで、ルイス酸触媒への応用が期待できる非平面型カルボカチオンを発生することに成功した。そのアセトニトリル付加体を合成単離し、単結晶X線構造解析により構造を明らかにした。アセトニトリル中、マレイミド陰イオン存在下では、アセトニトリルはカルボカチオンに配位した後、さらにマレイミドによる求核攻撃を受けることが明らかとなった。今後、非平面型カルボカチオンの特異な構造および電子状態に基づく、多機能型ルイス酸触媒への応用が期待される。
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