研究概要 |
生体内の酸素活性化酵素の一つであるチトクロムP450の作用機序に着目し, 強いドナー性配位となるアミドアニオン配位が可能な新規窒素5座配位子を合成し, 単核鉄錯体を得た. 本錯体は, マイナス40度の低温下, 過酸化水素との反応により単核鉄3価ヒドロペルオキソ種を与えることを各種測定によって確認した. ヒドロペルオキソ種は準安定であり, 中性の配位子からなる鉄3価錯体が安定な鉄3価ペルオキシド種を与えるのとは大きく異なる. また, ヒドロペルオキソ基の酸素-酸素結合開裂様式を調べた結果, 従来の鉄錯体とは異なり, ヘテロリシスが優先的に進行することが判明した. また, 溶媒として用いたメタノールが蟻酸にまで酸化されることも同時に確認された. この結果は酸素-酸素結合のヘテロリシスを経由して形式的な鉄5価オキソ種が生成していることを示唆している. 更に, 上記の単核鉄3価ヒドロペルキソ種の安定性が共存する塩基の種類に強く依存することを見いだした. 4位の置換基のみが異なる一連のルチジン誘導体を塩基として用いた場合, ルチジン誘導体の塩基性が弱くなるに従い, ヒドロペルオキソ種の減衰が有意に加速されることが判明した. この結果は、過酸化水素からプロトンを受け取った塩基がヒドロペルキシド種に対して共役酸として働くことを強く示唆している. ヘム酵素であるHRPはPush-Pull効果によってヒドロペルオキソ基のヘテロリシスを誘起し, 迅速な鉄オキソ種の生成を達成している. この反応の中で, 過酸化水素との反応により遠位ヒスチジンはプロトン化し, 鉄3価ヒドロペルキソ基の酸素-酸素結合の開裂を促進するための共役酸として働くと考えられる.
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