研究概要 |
アミドアニオン配位を有する単核鉄錯体を開発し,過酸化水素およびアルキルペルオキシドとの反応を解析した.その結果,ヒドロペルキソ付加種の生成には,塩基の共存が必須であるが,この塩基の塩基性の程度がヒドロペルキソ種の安定性に影響を与えることをみいだした.この結果は,過酸化水素からプロトンを受け取った塩基が,ヒドロペルキソ種に対して共役酸として働き,ヒドロペルキソ種の酸素-酸素結合のヘテロリシスを誘起した結果であることを強く示唆している.そこで,pKaの様々に異なる一連の塩基を用いて,ヒドロペルキソ種の安定性を評価し,添加した塩基の酸塩基触媒としての機能を評価し,共役酸の酸性度とヒドロペルオキソ種との安定性の間に良い相関関係が存在することを明らかにした.また,共役酸はペルオキシド中間体の安定性を低下させるだけでなく,酸素-素結合のイオン的開裂を促進することも明らかにすることができた.これらは,金属酵素の反応中心で金属イオンに配位しないアミノ酸側鎖が第2配位圏で行う協奏機能を人工系において発現可能であることを実証した点で重要である.本研究では,本金属錯体が水中でも安定に存在することに着眼し,水中での過酸化水素の活性化および外部基質の酸化へと展開した.その結果,上記の5座配位金属錯体ではなく,4座モノアミドアニオン配位単核鉄錯体が高いペルオキシダーゼ活性を発現することを見いだした.反応解析の結果,新しく開発した鉄錯体には空配位座がシスの関係に存在しているために,過酸化水素の活性化においても,基質酸化においても,その反応速度定数が向上していることが判明した.
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