本研究では、金属錯体に特徴的な分子不斉である面不斉に着目し、面不斉Cp錯体を用いて高選択的不斉触媒反応を開発することが目的である。昨年度、非対称置換アリル化合物の反応でルテニウム触媒が高い分岐選択性を示すことを利用して、フェノール類と一置換ハロゲン化アリルとの反応にっいて検討し、3mol%の触媒存在下、THF中で塩化シンナミルとo-クレゾールを30℃で24時間反応させると、91%収率、95%eeで分岐エーテルが生成することを明らかにしている。本年度は、この延長として新たな不斉アリル化反応の開発に取り組み、様々な生理活性物質の骨格となるインドールとの反応を検討した。その結果、インドールの3位に分岐型アリル基が高選択的に導入できることを見出した。反応条件を最適化した結果、分岐型アリル化生成物が79%収率で得られ、エナンチオ選択性も83%eeと高い値を示すことが分かった。本触媒系は幾つかの置換インドールとの反応にも適用できたが、置換基を導入した場合には、無置換インドールとの反応と比較して生成物の収率或いはエナンチオ選択性が低下した。反応機構に関する知見を得るために量論反応についても検討した。中間体と考えられるπ-シンナミル錯体を合成し、インドールを反応させたところ、43%収率、87%eeで分岐型アリル化生成物が得られたことから、本反応もπ-シンナミル錯体を経由して進行していることを明らかにした。
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