塗装・印刷工場や化成品・化学工場からの排ガスに含まれて排出されるトルエンやアセトアルデヒドなどの揮発性有機化合物(Volatile Organic Compounds ; VOC)は、作業・居住環境における悪臭問題だけでなく、シックハウス症候群や化学物質過敏症などの原因物質である。従って、VOCを二酸化炭素と水に完全分解し、無害化することが強く求められている。本研究では、当研究室で開発したCeO_2-ZrO_2-Bi_2O_3複合酸化物を、炭化水素に対して高い酸化活性を示す白金(Pt)とともにγ-Al_2O_3担体上に分散担持した触媒を新たに調製し、これを接触触媒法によるVOCの完全燃焼除去に応用した。対象とするVOCのガス種としては、野菜や果物の腐敗を促進し、品質を著しく低下させるエチレン、および塗料や接着剤の有機溶剤などに使用されており、シックハウス症候群の主な原因物質の一つであるトルエンを選択し、活性が高く、悪臭成分や可燃成分を発生させることなしに炭酸ガスと水に完全燃焼でき、しかもメンテナンスを不要とする簡素な構成の、『安全で安心して用いることができる』、全く新しいVOC完全燃焼触媒の開発を目指した。 本研究で開発した触媒のエチレン及びトルエンの燃焼活性を調べたところ、いずれの燃焼反応においても、炭酸ガスと水蒸気のみが検出され、エチレン及びトルエンの完全燃焼が確認された。とりわけ、助触媒としてCeO_2-ZrO_2-Bi_2O_3複合酸化物を加えることにより触媒活性が著しく向上することが明らかとなった。これまでに報告されている触媒では、エチレン及びトルエンを完全燃焼させるためには、それぞれ少なくとも約150℃及び約200℃の温度が必要であったのに対し、本研究で開発した触媒では、エチレンでは100℃を大幅に下回る65℃において、またトルエンについても120℃という極めて低い温度において完全燃焼を実現した。
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