本年度は、まずヘムタンパク質の機能化として、昨年かなり物性が明らかになったコロール鉄錯体を駆使し、ミオグロビンや西洋ワサビペルオキシダーゼの天然のヘムをコロール鉄錯体に置換した再構成タンパク質を調製し、その触媒活性を評価した。実際に、コロール鉄錯体を含むミオグロビンは、フェノール誘導体を基質とする過酸化水素酸化反応において、天然のミオグロビンを大幅に超える触媒活性を示した。一方、西洋ワサビペルオキシダーゼにおいては、コロール鉄錯体を有するタンパク質の方が活性が低下し、同じタンパク質でも顕著な反応性の違いがあることも明らかとなった。さらに、この酸化反応の中間体の検出を、ストップドフロー法を用いて実施し、天然のペルオキシダーゼと同様に、compound Iと呼ばれる2電子酸化当量の高酸化中間体を、過渡的に観測することに成功した。一方、ニトロゲナーゼのモデルとして、システインを多く含むメタロチオネインのαドメイン(アミノ酸30~31量体)をタンパク質マトリクス及び配位子に用いた鉄-硫黄(システイン)クラスター錯体の合成を行った。その結果、鉄4核のクラスターがタンパク質クラスター内に生成することを電子スペクトル及びマススペクトルを用いて同定し、鉄2価状態では、メチルレッドなどのN=N結合を水素化し、さらに切断してアミンまで還元することを見出した。現在は、まだ触媒反応までは至っていないが、今後この系を検討し、新しいニトロゲナーゼ機能モデルとして発展すると期待される。
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