本課題は従来触媒で達成できないオレフィンの精密重合を可能とする高性能バナジウム錯体触媒の設計・合成に関する。特に今迄の成果を基盤に、イミド配位子及びアニオン性配位子を有するバナジウム5価錯体に注目し、オレフィンの配位重合やメタセシス反応に有効な高性能分子触媒の創製を目的としている。特に触媒活性種のアルキルカチオンやアルキリデン錯体の合成・同定・構造決定や関連する有機金属錯体の合成や反応性に関する基礎的知見の確立を通じて、より高性能触媒を創製しようと考えている。平成21年度の主な成果は以下の通りである。 アリールイミド配位バナジウムートリアルキル錯体と1当量のフェノールとの反応は室温でも速やかに進行するが、さらに1当量のフェノールとの反応は室温では反応せず、加熱かつ長時間を要した。得られたモノフェノキシ及びビスフェノキシ錯体に別のフェノールを添加すると、アルキルとの反応ではなくフェノキシ配位子の交換反応が室温でも速やかに進行した。この事実は、この置換反応が(フェノールが配位した)5配位中間体を経由することを強く示唆し、我々が報告したアルキル錯体とアルコールとの反応との結果とよく一致した。なお、得られたモノアルキル錯体はホウ素化合物との反応でカチオン錯体を形成し、(バナジウムで初めて)環状エーテルのリビング開環重合触媒としての機能を発揮した(論文投稿準備中)。 アダマンチルイミド配位子及びキレートピリジルアニリド配位子を有するバナジウムジクロロ錯体は、メチルアルミノキサン助触媒の存在下、極めて高い触媒活性かつ選択性でエチレンの二量化が進行した。フェニルイミド配位子やシクロヘキシルイミド配位子を有する錯体でも二量化が優先的に進行することから、活性や選択性へのイミド配位子の効果が顕著に現れた。
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