エナンチオ選択的反応では、生成物の鏡像体過剰率(ee)は変換率によらず一定である。一方で、ラセミ体に対して不斉反応を行う速度論的光学分割反応では、未反応原料と生成物のeeは、変換率(convn)に応じて変化する。従って選択性はeeでなく、基質エナンチオマー間の反応速度比K_R/K_S(=krel)で評価される。我々は以前0次反応の速度論分割の定量解析を初めて示した。ここでは、実際にこの理論によく合致する実例として我々自身が開発したアズラクトンの加アルコール分解反応を示した。0次反応の速度論分割の最も顕著な特徴は、生成物のeeの変化に現れる。1次反応では反応開始直後からeeが低下し始めるのに対し、0次反応では一定値を保つ。結果として、0次反応の方が、分割の効率が高くなる。この論文発表の数ヵ月後、イギリスのBlackmondは、反応機構を絡めて速度論分割を議論した論文を発表した。Blackmondは、0次反応になりうる機構を2通りに分類し、そのいずれの機構の場合も速度論的光学分割に適用した場合はeeの変化の様子は1次反応と同じになる、と主張している。そこで我々は、理論的研究を行い、異なる二つの反応機構が基質エナンチオマー間に働く場合、0次反応の速度論分割が可能であることを見出した。速度式は、反応剤の濃度の項まで含んだ複雑な形(三元連立微分方程式)となっているので、数値計算でシミュレーションを行いeeの変化を示した。今年度はその証拠を掴むべく、X線結晶構造解析のための単結晶作成や、錯体の生成定数測定などを行った
|