ポテンシャル井戸内部のどのような相空間構造が"局所平衡"近似を成立させるのか、換言すると、どのような井戸内部の相空間構造が異なるベイスン間を経巡る系の分子記憶を担いえるのかは化学反応動力学における未踏の未解決問題である。有限次の正準変換摂動理論において、これまでの新旧の座標変換では、シンプレクティック構造が完全に保存しないことに由来する作用変数の揺らぎが、強い高次元カオス系においては無視できないことが判明した。我々は新規に母関数をハミルトニアンとする仮想的な時間発展を行い、新旧の座標変換を高精度で求め、固定点から離れたところにおいて、ポテンシャル井戸内の"不変多様体の残骸"を検出する理論を新規に構築した。HCNに適用し、HCNが高い振動エネルギーをもち乱雑にはげしく振動しているような場合にも、「運動モード」を抽出することができ、一見、確率過程的に見える反応過程も、運動モード間のゆっくりとしたエネルギー移動によって解釈されることが分かった。このほか、Langevin熱浴下における多自由度化学反応系において、反応系自体に内在する非線形相互作用や熱浴との相互作用を顕に考慮に入れた新しい反応座標を導出し、"確率過程"に内在する凝縮化学反応における反応決定性を考察した。
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