我々は熱的に揺らぐ環境下における状態変化の決定性の存在を調べるために、熱雑音存在下の化学反応を多次元一般化ランジュバン方程式で表現し、時間依存標準形理論をランダムな外力を受ける系に拡張し、系の反応性を決定する力学構造を抽出することに成功した。その結果、系の持つ複数の自由度間の非線形相互作用、およびランダムな外力の存在下においても、それらに応じた適切な座標を構成してその座標に射影して見ることによって運動が単純な形になることを見出し、またその座標変換を得るための具体的な手法を構築することに成功した。この特別な座標で見ることにより、ランダム力の存在下にあっても少なくとも鞍部点近くの領域においては反応するものとしないものとを分かつ境界が存在し、反応の帰趨は系が鞍部点近傍に入った時点でこの境界面のどちら側にあるかのみで決まっていることを実証した。この境界面は本研究で導入した新しい座標がゼロになる場所として解析的に与えることができる。新しい座標は元の座標およびランダム力の非線形な(汎)関数であるが、その解析的な形を見ることにより系の反応性に影響を及ぼす因子を環境の熱ゆらぎの効果、非線形性の効果、およびそれらが複合的に組合わされた効果に分類して理解することができる。また、高温・高エネルギー状況下において、そのような反応座標が存在しえない(ような)状況においても、相空間上に反応する・しないを分割する反応分割面は頑健に存在しえることを新規に見出した。独立な反応座標と反応の可否を律する反応分割面の存在は"対"として捉えられている従来の常識を覆すものであり、高温・高エネルギー領域における新規な反応様式の発見と高く評価することができる。
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