研究概要 |
ナノサイエンスには様々な時間スケールで起こる電子の運動が存在する。例えば、水素原子中の電子の軌道を古典モデルで扱った場合、電子の回転周期は150アト秒である。つまり非常に軽い電子そのものはアト秒オーダーで動き回っている事になる。通常の化学反応で見られる分子内の電子移動は原子核が反応バリアを越える時間スケールで起こる。一方、生体内の電子移動反応は、タンパク質内の電子移動過程ばかりでなく、比較的小分子であるキノンやシトクロムcなどの2000原子からなる非常に大きなタンパク質の拡散過程の時間スケールが必要である。このように電子の動的状態を記述する為のタイムスケールは系の構成要素や特性に大きく依存している。本研究では、分子の形状、構造変化に伴う電子の運動に着目し、集団的な運動を抽出する事を目的とした。平成21年度は、主に多電子動力学法の開発とその応用計算(Shigeta, Bull Chem. Soc. Jpn. 82, 1323 (2009))、人工核酸塩基の安定性解析(Matsui, J. Phys. Chem. B 113, 2790 (2009))、核酸誘導体の溶液内電子移動反応解析、半導体ナノドット界面での特異な電子移動現象の理論解析を行った(Sakurai et al. Jap. J. Appl. Phys. 49 014001 (2010))。その成果は文部科学大臣表彰若手科学者賞を受賞するなど、化学の分野で注目された。
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