研究概要 |
アミロイド線維に代表される蛋白質凝集体は,アルツハイマー病をはじめとする種々の疾患の原因となる。これまでの実験により,凝集体は生体中で対らせん状線維(Paired Helical Filaments, PHF)と呼ばれる構造を形成しており,凝集体形成に特に重要な役割を果たす残基の配列(部分鎖)が存在することが分かっている。Eisenbergらのグループは,凝集体形成に最も重要な働きをすると考えられる部分鎖ポリペプチドの単結晶30数種類について構造を決定しており,いくつかの特徴的な構造を見出している。本研究では,蛋白質凝集体を一次元あるいは二次元に広がった"結晶"としてモデル化し,凝集体表面の水和構造とゆらぎを分子動力学(MD)シミュレーションにより解明し,凝集体形成のメカニズムや生理活性物質との相互作用との関連性を明らかにする。 本年度は,アルツハイマー病の原因となるタウ蛋白質のアミノ酸配列のうち,PHF形成に最も寄与するとされる6残基のみからなる部分ペプチド(VAL-GLN-ILE-VAL-TYR-LYS,以降VQIVYKと表記)を対象として,凝集体のモデルとなる各種結晶構造を構築し,その水和構造をMDシミュレーションにより解析した。水素結合数や水の配向緩和時間などを計算し,凝集体が水和構造や水のダイナミックスに及ぼす影響について考察した。PHFによる水分子の自由度の制限が緩和時間およびその分布の増大を招き,細胞内の生化学反応に影響を及ぼしている可能性が示唆された。
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