最近キラル分子触媒として注目されているキラルチオ尿素とキラルリン酸触媒について、それらの代表的な反応の反応経路を分子軌道計算(B3LYP/6-31+G*)により解明した。前者ではニトロオレフィンとジメチルマロネートとのMichael反応について計算したところ、異なる立体科学を与える2つの遷移状態構造が得られエネルギー差は1.76kcal/molであった。これは室温で90%eeに相当し、実験で得られた結果とよく一致した。現在、このエネルギー差をあたえる因子についての検討を行なっている。キラルリン酸についてはイミンとアセチルアセトンとのmannich反応について研究を行なった。得られた遷移状態構造の比較から、イミンとアセチルアセトンが重なり型の遷移状態構造をとる時に不安定になり、ねじれ配置の遷移状態構造を経て生成物にいたることが分かった。キラルリン酸のキラリティーがどのように反応基質の立体に影響しているのかについての解明は今後の課題である。さらに、3'3-bis(anthracenylethynyl)binaphtholから得られるキラルリン酸を用いるカルボン酸の絶対配置や光学純度の決定についても研究をおこなった。キラルリン酸はカルボン酸と1:1錯体を形成し、さらに2-phenyl propionic acidとの錯体では会合定数から錯体におけるR体とS体の安定性の差が2.74kJ/molであることが分かった。この立体選択性制御因子の解明のために汎密度関数計算を行なった。その結果リン酸部位とカルボン酸間の2つの水素結合、アントラセンとフェニル基、アントラセンとメチル基の弱い相互作用が重要であることがわかり、実験で得られるエネルギー差をほぼ計算でも再現することができた。
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