研究概要 |
本研究では、電子のストレステンソルを用いた電子状態の記述を元に、新しい化学結合の理論を展開した。この理論では、空間の各点で定義されるストレステンソルが中心的な役割を果たすが、そこから導かれるテンションカ、エネルギー密度、局所化学ポテンシャルというやはり局所的に定義される量を用いて、化学結合を新しい方法で表現できる。これは従来の電子密度を主とする方法とは異なる視点を与えるにとどまらず、実用上にも有利な点がいくつも見いだされている。このストレステンソル解析は独自性の高い手法ではあるが、ストレステンソル自体は従来のDFT法などから計算される波動関数から構成され、われわれのグループによって計算パッケージも公開されている。これは更なる理論の展開とともに順次拡張される予定である。本年度ではその応用として、Ptクラスター、A1クラスターへの水素吸着に関する化学結合や化学反応性が解析された。ラスター(Pt数は2〜9)のあらゆる結合について、結合次数と結合長の関係を調べたところ、H-H結合、Pt-H結合、Pt-Pt結合を分類でき、われわれのエネルギー密度を用いた結合次数は、結合長と非常にきれいな線形に近い相関を持つことがわかった。Alが四面体の頂点に位置するにうなクラスターに水素を吸着させた分子の結合次数を計算したところ、やはりAl-HとA1-A1でそれぞれグループに分離され、結合次数は結合長と比例関係にあることがわかった。12個のAlが二十面体の頂点に位置するような4ラスターの中心にsi,A1,Mgまたはその正負イオンのいずれかがあるようなクラスターへの水素吸着させた時の、様々な原子問の結合次数を計算したところ、この場合も異なる結合間でグループ分けがされ、グループ内では結合長に関して結合次数は線形に減少していることがわかった。
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