代表的なスピン・クロスオーバー錯体である鉄ピコリルアミン錯体のスピン一重項、三重項、五重項について、密度汎関数法による電子状態計算を実行し、最安定構造、エネルギーギャップ、再配置エネルギーなどを求めた。異なるスピン状態間の相対的エネルギーは、密度汎関数の選択に強く依存するので、新しい手法である長距離補正法も含め、種々の汎関数を比較検討した。結果、長距離補正を導入したLC-RPRE法が最も適切なエネルギーを与えることを確認した。状態間遷移を表す代表的な自由度として、鉄イオン周りに八面体配位した窒素原子の全対称伸縮振動およびヤーンテラー変形モードが重要であることを選択し、それ以外を溶媒のように扱って、住・垣谷理論を適用した。これにより、これまで無視されてきた中間三重項状態における緩和過程との結合と競合、低温における核の量子トンネル効果を取り入れた状態間遷移速度の計算を行い、そのメカニズムについて議論した。また、水素結合構造のダイナミクスやプロトン移動反応を扱う新理論である準量子的時間依存ハートリー法を開発し、プロトン移動反応における振動緩和との競合について議論した。また、溶媒座標を射影した一般化ランジュバン方程式を導出し、シミュレーションする方法を開発した。
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