研究概要 |
本研究は、理論家と実験家が協力し、第三周期典型元素を含む核置換ポルフィリンの化学を分子理論という立場から体系化し、新規化学事象の解明を行うことを目的としている。本年度、実験面に関しては、リンと硫黄を含む核置換ポルフィリンの錯形成挙動を系統的に調べた。その結果、P, S, N2型ポルフィリンと0価のパラジウムとの間で酸化一還元を伴う錯形成が進行し、パラジウムーイソフロリン錯体が定量的に得られることを見いだした。本錯体は、空気中で安定な核置換イソフロリン錯体の初めての合成例である。0価のニッケルや白金を用いた場合にも同様の錯形成が進行し、対応するイソフロリン錯体が得られる。パラジウム錯体では結晶構造解析にも成功し、π系が大きく歪んでいることが明らかになった。また、各種NMR測定により、いずれのP, S, N2-イソフロリン錯体も20π構造を持つにもかかわらず非芳香族性を示すことが明らかとなった。このような特異な反応性や芳香族性は通常のポルフィリンやS2, N2型ポルフィリンでは認められないことから、リンによる核置換効果がポルフィリンの化学性に大きな摂動を与えることが確認できた。また、理論面では、フリーベースのポルフィリンを基にNH基をPPh、S等で置換したモデルについて、構造、芳香族性、励起スペクトルの計算を行った。構造については、NH基を硫黄や酸素で置換したものについては平面構造を維持する一方で、リンで置換したものについては環の平面構造が歪むという結果を得た。芳香族性は、リン置換することによって減少するが、環の歪みにもかかわらず大きく、18π電子の芳香族性は保たれることを示した。励起スペクトルについては、共役系が保たれることからリン置換による大きな変化はないが長波長側へのシフトがみられること、また、電子効果と構造の効果の分離により、リン置換による電子的な効果が大きいことを明らかにした。
|