研究概要 |
本研究は、理論家と実験家が協力し、第三周期典型元素を含む核置換ポルフィリンの化学を分子理論という立場から体系化し、新規化学事象の解明を行うことを目的としている。本年度は、コアのリン原子がオキソ化されたポルフィリンおよびホスファポルフィリンから得られた金属錯体の芳香族性に関して実験・理論両面から検討を加え、参照化合物との比較から芳香族性・反芳香族性を定量的に評価した。 1. コアのリン原子がオキソ化されたホスファポルフィリンの芳香族性については、P, S, N_2型18πホスファポルフィリンと過酸化水素との反応により得られる20πポルフィリン(イソフロリン)の芳香族性を、NMRで観測される環電流効果、および、密度汎関数により計算されるNICS値により評価した。その結果、P, S, N_2型18πホスファポルフィリンは高い芳香族性を有すること、一方、20πポルフィリンは予想に反して弱い反芳香族性を有することがわかった。弱い反芳香族性の原因には、大きく歪んだ、堅固なπ系が考えられる。 2. ホスファポルフィリン金属錯体の芳香族性については、18πホスファポルフィリンの錯形成により得られる18πロジウムポルフィリンおよび20πパラジウムイソフロリンの芳香族性を、同様の手法により評価した。これらの錯体では金属中心の配位形態に合わせてπ平面が柔軟に歪むため、18πロジウムポルフィリンの芳香族性は対応するフリーベース体の芳香族性に比べてやや小さくなり、20πパラジウムイソフロリンは、20π系を持つにもかかわらず、弱い反芳香族性しか示さなかった。ただし、中心金属としてマグネシウムを導入すると20πポルフィリン錯体の反芳香族性が向上するという結果も得ており、錯体のパラメータ(π系の電子状態、中心金属の酸化数や配位数など)が核置換ポルフィリンの芳香族性に与える影響を系統的に解明するための基礎的知見を得た。
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