以下の項目について研究を進めた。 (1)無限次DKH(IODKH)法による相対論的電子状態理論の開発 : 我々はこれまで4成分Dirac法とほぼ等価な2成分相対論法の開発を行ってきた。本年度は2電子項への拡張を試み、我々の方法がDirac-Fock法と殆ど等価であることを示した。更に、この高精度計算をより広範囲の分子系へと応用できるよう、計算精度を保ったまま計算コストを削減する手法の開発を行った。この結果、IODKH法は重原子においてDirac-Fock-Coulomb法との誤差を0.01hartree許すならば数十倍の高速化が可能となった。 (2)SAC/SAC-CI法による磁気円二色性計算プログラムの開発 : 今年度は、基底/励起状態を高精度で計算できるSAC/SAC-CI法を用いて磁気円二色性スペクトルのFaraday B項を解析的に求めるプログラムを作成し、エチレンなどの簡単な分子への応用を行った。磁気円二色性スペクトルの形状に電子相関の効果が顕著に反映することがわかった。 (3)鉄ポルフィリン系の電子状態・常磁性シフトの解析 : 本年度は、シアニド-イミダゾール鉄ポルフィリン分子の脱プロトン化による電子状態の変化とC-13常磁性シフトを差電子密度を用いて解析した。更に、種々のヘム鉄に配位するCNアニオンのC-13常磁性シフトについても研究を進めた。
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