本研究は、FMO法の発展的開発を電子相関計算と分子動力学シミュレーション(FMO-MD)の二つの軸線を取って展開している。各々の平成21年度の成果概要を以下にまとめる。 電子相関計算では、golden standardといえるCCSD(T)まで計算可能なファイルレス並列化エンジンの独自開発に成功したことがハイライトと言える。多電子論では下位の近似は系統的に導出されるので、その特徴を活かしてQCISD(T)やMP4(SDQ)などもキーワード指定でそのまま実行出来る。実行速度的には世界水準をクリアしており、さらにFMO計算との連携も既に取れているために、実タンパク質への応用も出来ている。一例を挙げると、HIV-1プロテアーゼ(198残基)に阻害剤が結合した系のFMO-CCD/6-31G計算が64コアのPCクラスター上でも6日間で完走するレベルであり、かっては想像すら出来なかったタンパク質のCC計算が本研究によって実現されたインパクトは極めて大きい。励起状態の計算では、CIS(D)の繰込み修正を発展させた他、計算コストを低減しつつ精度を保持する新しいアプローチとして2体および3体の励起エネルギー補正法を実装し、蛍光タンパク質群についてテスト計算を行って良好な結果を得た。 FMO-MD関係では、3体のエネルギーと力の補正を実装し、水和系のシミュレーションの信頼性を大幅に改善することに成功した。応用例を示すと、Zn(II)イオンに64個の水を水和させた液滴モデルをHF/6-31Gレベルでシミュレーションしたところ、コレまでの2体ではZn-0距離の平均値は2.09A、3体では2.05Aとなり、実験値の2.06±0.02Aとの対応において後者が勝ることは明らかである。また、懸案であったMP2のエネルギー微分計算の高速並列エンジンの開発にも成功しており、FMO-MDの信頼性が電子相関導入の点からも高められた。
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